父健一について


10代の頃に、相棒が牛乳を飲むのを黙って見ていた、という解釈がある。
島の者と知れた者にはわざと厳しい対応があったと打ち明けてくれる人がいる。
戦時中の事である。
肉を焼いて食べる所にもいたらしく、ヘミングウェイの短編小説の一場面だけ特に記憶として保存されている。
犬がいがむみたいに、「自分でかせいだ肉か?」
ユダヤ人が、インディアンの若者相手に、(家族の生活も何も)みんな私が靴を売り歩いて稼いだものだ、と自分の労苦を自分でねぎらうような鼻息にして打ち明ける、短編ラジオ番組のシーンも特別に思い出されるものである。
自分で稼いだもの、というテーマの他に、荒野での二人という状況に共通点がある。


コピー係りの半生そのものにも、牛乳と焼肉のシーンがあり、少年不運としてしか考えられないという確認でもあったようだ。
留置所に収容されたこともあるが、その心事は簡単に潔癖である例であり、健一の本性の稀にも廉潔勤勉であることの評価は堅かったといえよう。