現在幕末の事件疑惑を探偵中である。

 ヒント。 恐いが先に立つ江戸庶民。 江戸市民はとにかく恐い。 恐いのなんのって、猫が立って踊るのを見たら、肝を潰すくらいに恐いのである。  (上の家の主水のも、神社前を通る毎に恐がる訓練を受けてきて、声を上げて泣く癖のある子供に育っていたという。 古くにも、ぞっとさせるような手があったことは確かである。)
 そしてやたらに信心深い。 宗教商売が直ぐに立ち行く。 ものの祟りが恐くてならない江戸市民、という一実態が見えてくる。
 見てきたような杉浦さんの江戸観察によると、江戸は雀色一色の町だそうである。 肌も家も着る物も。 この頃白茶けてしまった、という言い方があるが、江戸市民の肌色のことを本来表現したものなのか。 
 番頭を白鼠などと捻って言う事があるようだが、武家相手にも商家相手にも、雇用口利き制度があって流動性が高い特徴もある。
 白を切る手もあった、白ばくれている、という語呂の実際もあったか。
 頬被りした覗き見人のことを聞くと、親分にやにやする癖があるのだが、これはビデオのない時代、明日の自分の、最後の実地検証というようなものの場面を、描写に借りていたものと想像される。
 とにかく江戸市民は呆気ないような運命に攫われている。 あっさりとして、宵越しの金も持てないほど身軽で漂流民的である。 珍しい強い特徴である。 火事が多いのである。