何が何でも上の家自体というものは、万に一軒もあるまいと思われる古格の家柄であり、組織から恵まれること少ないきまじめ人間だけが相続してきた家であった。

 藤原時代以来の社家である。 京都岩清水神宮由縁を有する奥東北地方一番の父祖筋である。
 何の事件が江戸時代にあったとしても、上の家にいる者は最後まで強盗紛いに身を落としたことはない。 人肉を食べるに至ったことはない。 I have never been a thief! と相続者として毎回署名するいわれである。 痴漢したこともあるまいと思われる 
 顔で言うなら長谷川一夫、鈴木総理というようなもので、まことにおっとりとした素朴なお人よしの人柄である。 末の世までそのような、ずるいことのない人間でなければこの家の当主にはなれないのである。 だまされてもだませない。 人の悪口は言わない。 
 「見てきた限りそういうことじゃないですか、加藤さんよ。」 
 要所の神社を頼まれるとは、人間の堅気を見込まれての事に違いないのである。