しかしグループは、陛下様をロボット扱いにしても、上の家の者に向わせようとした。

 陛下にとって、今更、というほどに今回の出張は無用な不用意な事であった。
 グループのスケジュール通りに歩き回され、何かの発言を喰らわされる。
 代々木村は、前述のように、放火事件及び放火カトキチ事件のある所であった。
 六軒人に火付けさせるのでなく、六軒人に口を利いた目の前の家の主に火を付けさせろ、というカトキチ回し工作が以前あったらしく、その隣家の主人も、つい、放火攻撃的発言をしてしまったことがあったのであろう。 後に、確かに、自覚と反省のしるしをわざわざ示されている。
 その隣家の方角に立たせられた陛下様が口にした言葉が、火を付けろ、であったと言われている。 しかし実際に口にされたのか、予定表にあってラジオ発信されただけの言葉であったのかは不明である。
 次に猿回しの猿のように移動させられた陛下様の立った所は、ちょうどに、動悸してならない所であった。
 だんなと呼べと言ったから、分家の西の家の者は我慢がならなかった。 ゴシャゲで動悸してならない。 動悸する、動悸する、と家の者にも口にしていたのであろう。 あぜ道をまっしぐらに詰め寄る若者に向って、犬ころ相手のように手を回して、ラウンド、ラウンドと声を掛けたという、270年前のその現場を持って来ていた所であった。 実際に、この時までに何人の若者が、その現場に寄せられているというだけで動悸を打ってきたか知れないのである。