上の家と南部藩との関わり。

　清己の父親と目される者が、千代田城下の武将屋敷を奪えぬかと、路地の裏々でエージェントらしき人を求めては話しかけていたという、その姿が南部氏の耳に届けられたことがあったらしい。
　流鏑馬の大当たりーっ、とはこの事を指していたのであろう。　この時に、すっかり振られてしまったのである。
　「天保の始末会議」　というものは簡単に忘れ去られるものではなかったのであるが、上の家とは、そのように裏切り者を置く家か、と不信感で一杯になられたものと想像する。
　しかし、目前の立ち遅れ、不始末、好き嫌い位で簡単に片づけてしまうような、浅薄な対応では終われない深いものがあったのであろう。
　伊知郎、万里江ちゃんに心を掛けて沢山プレゼントしている、人間の厚みが感じられる、どんどん伸ばせないか、となかなか好意的なことを仰っていたそうである。　最後の願いであった弟を亡くしているのを見て、気の毒が先にあったのかもしれない。
　伊達氏もやはり、「天保の始末会議」　の因縁を世界の重大事と考えておられ、あくまでも最後の窓口を、と期待されておられるのである。