上の家の者は皆逃げていた。

 そんな者がいるか、という程度にも。
 キャシアス・クレイ氏も加賀真理子さんも菅原さんも、正直な目撃者なら誰でも認め得るように、片時も去らない関節技というものがあったのである。 それを見てこそ、自分達の事はともかく、これは長々と悔しい仕掛けだ、と菅原氏も口にしたのであろう。
 この長々とした取り付きというのはよくあることなのである。 一例に、口上が欲しい、と言うのであればと、一時も離れないような都会人アクセント付合作戦というようなものが普及する。 このような地下展開によって、現在の新渡来人の日本語発言と被相続人記憶の相続が可能なのであろう。
  右側のように四隅から着飾らされ、支え上げられているばかりと思われるのかもしれないが、実際は左側のように、四隅から取り囲んでわざわざ息の付けないよう、人の寄り付けないよう、来る日も来る日もひねもす、間無しに離れることのない手と口と心臓と頭とその他なのであった。
 精一は玄関で口が利けない。 中学生の時に玄関先にあった鑿で男の腹を突き刺し、逃亡者となっていた。 その因縁を祟らせたものと思われる。 蜂に刺されるみたいに五寸釘を突き立てられ、ズボンやらを裂かれたのであるらしい。 本能的に反応してしまうほどに痛かったものと想像される。 金で頼まれて嫌々ながら出て来た若者であったという。