前回は対日的に悪意ある渾名例ばかり出して、民族国家間の海面に悪感情の小波を立てる因となりやしないか、と危惧していながら、

何日かが経ってしまった。
 日本の国の形の渾名なら、東海の異民族に対して心の穏やかな、最終決定的な名前を挙げることを忘れては、あまりに手抜かりである。
 いろいろな形に譬えられるが、結局日本は稲穂の形の国である。
 倭。 実った稲穂の形から人間の特徴を表現する字である、と手持ちの辞書にあるが、日本を指す以外の使用例が見られない。 あるいは、日本を表現するために作られ、持ち出された言葉なのかもしれない。
 国の形から表現されたのであれば、日本人の特徴を軽蔑的に表現する意図ばかりのもの、と考えるのは間違いなのであろう。
 実際、日本人が小振りで稲穂のように首を垂れている民族である、というような古文書の人体記述を読んだこともなく紹介されたこともない。
 日本は実に、実り豊かな優しい稲穂の形にそっくりではないか、という決着であったと思われる。 周辺の異民族を動物昆虫呼ばわりしてはばからない中国にしては、この正式呼称はずいぶんと寛容なものである。
 しかし日本自らは、国威にふさわしくないとこの字を廃棄し、以後同音の和の字を用いる。
 ついでに、稲荷という日本の重要神社名も、倭という国名と同由来であり、また日本の国の形は狐の顔のようでもあった。