藩派遣の「近藤武者」は、室内に入るなり難しい話を切り出した。 「分かるだろうが、」という切り出し文句までメモに残されているようである。 

 大体の事を言えば、先頃佐橋の若者が山中を徘徊し、番所において酒手を無心したことがある。 構え無きものとして即無礼討ちにあったのであるが、これは何かと連動した謀反心の表れとも考えられる。 雄心抑えきれない元城主子孫のはみ出し行為という裁きであったが、前例のない不用心な振る舞いであった。 (佐橋氏はその番所に勤めていたのかもしれない。)
 その後知っての通りの銘木盗伐事件が発生する。 黒沢尻の商人とも連携した大事件となった。 和賀氏系の謀反の空気が感じられる。 
 給仕人佐橋は処刑され、佐橋氏は定席のポストを失う。 こうなると次には和賀氏重臣の高峰氏の心中が心配である。 同じように最初から給仕人の定席に置いてきたものである。
 雇人としてはその心を新たに確かめたい。
 その為には高峰氏のちょうどいい年頃の娘を手伝いに派遣させよう。 そして、、、、、
 その時にその心が知れるであろう。
 (尾崎紀代彦唯一の大ヒット曲が歌うそのままである。 その見事な揉み上げスタイルこそは近藤武者のトレードマークを現代のステージの上に相続したものなのである。 しかし確かに、遺伝がなければそのような立派な揉み上げ髯を生やして人に見せることはできない。)

 ところでそなたは近頃内儀を亡くされたという。 どうじゃ高峰の娘と婚儀を遂げて、晴れて夫婦となる幸せに与ってみては。 (哀れな奴、に掛ける時限付きの情けというものであろうか。)
 そなたの内儀は毎日の田畑労働で、インドのおなごのように真っ黒でしわくちゃにくたびれていたのではないか。 無垢な若い娘と一緒になれたら男としてこの上ない喜びではないか、とまでお節介の口を利かせたという。  
 しかし、神主は、これは心を鬼にした藩のお務めであるから、婚儀を挙げるペテンはかえって娘を裏切る仇となろうと肯んじなかったという。 亡くなった妻を忘却した、自分の喜びだけの振る舞いである。
 わざわざの藩の使いからの頼みである、断るわけにもいくまい、という迷いのない承諾と決心であったと思われる。

 高峰三枝子さんは旦那様を尊敬していて、とっくにその気でいた様子であったらしい。 どの程度にこの話を理解していたのか、とにかく、旦那様はこの地域の希望の星です、といった内容の心の内を洩らしていたようである。
 このようなひたむきな娘と心を通い合わせから後に、藩の頼み仕事などできようか。
 (ここで地下組織の触りについてヒントとなる証言がある。 娘さんは神主様を前にすると決まって胸が高鳴ったというのである。 最初から嫁になる相手と思えば、初心な女性にとって自然なことかもしれないが、他にもこの頃の「動悸がして止まない」という西の家の者の証言が伝えられているので、1700年代の地下組織電磁波術の発展を明かすものと考えてよくはないだろうか。)

 神主はしかし平常のの心では藩の務めを果たすことはできなかった。 また自分が犯人として捕まるものとも考えていなかった。 


紫露草と共に、今でも鮮やかに印し残されているブルーレット二点。 あまりにささやかであるか。
 
              
この隣家の御夫婦は水道攻めには反対で、秘かに洪水作戦を実行して心無い上水汚染行為の阻止を図ったことがあったという報告があった。