だんだら


都会の朝早いことであった。


疲れるな、銃にしてくれ、と言ったという。
それで銃を与えられ、撃ち方を教わったのであろうか。
銃身を握って撃とうとしたらしい。
間違って自分を撃つなよ、とからかわれて、だん!と押し出されたようだ。
ぱっぱっ、と赤い色が光るのが見えるだろう。
あのだんだらだ、だんだん!
線路近くの街の、その頃では珍しい西洋的な目に付き易い店拵えであったろう。


思いつくことから言えば、この時この人に指示を出していたのは、直接西洋人のスタッフではなかったかと思われる。


前に頼んでいた水道工事の人かと思ったらしい。
どうも妙な事があった。
また来てね、とお断りの言葉を掛けたのを、もう一度入り直して下さい、と言われたと思ったのだろう、男は言われた通りに、二回出入りしたらしいのである。
またね。えっ また? そう、また。
言葉の通じない人だと、その時気づいたのかもしれない。
顎をしゃくり返すようにして、その人を戸の外に送り返したというような身振りのビデオがある。
誰かが見ていて、後で描写証言したのであろうか。
とにかく一度出て来てからまた入り直したらしい。
ここに及んでも、言われた通りに動こうという拘束的なぎこちない心構えが、死ぬような心もとない情況の中で、ロボット的な動きに現れていて、素裸のように見て取れる。


いくらか言葉が分かりかけていたのであろう。


男のつぶやきを、脈絡もなく突如として、学生時代のコピーする者の手に渡されたことがある。
今初めてその意味が分かった。
殲滅、というおぞましい漢語であった。
せんめつしてやる、という勇ましい意志の表明ではなかったろう。
一つも勇ましいことのない、為すがままにぐうの音も出せないでいる惨状が目の前にあるのに、自分にそんな大仰な言葉を背負わせられるだろうか。
これじゃ、せんめつというものだ、という描写発言であったと思う。