姉は


放送学校の二年生にまで進んでいたという。
"初のアナウンサー"になるのだぞ、ハリアップハリアップと寄られてしまったのであろう。
牧舎跡にはイギリス人の地下組織が穴を掘って進行していたのである。


学費にも困って、もはや歩く人になっていたという。
何かの支払いに床に散らばった貨幣を、マイマニマイマニと言って拾おうとしたとか、片足靴が脱げてしまって裸足で歩いたとかのエピソードでもあるのか。
こけちゃった、と途中で倒れてシューズを脱いでしまった期待のマラソンランナーの無念の弁があった。
期待があったが、スタートする前にも片足が脱げちゃったということであろう。


弟はもはや頼る者もなく、自立できる生活の技術もなく、稚い身柄を引き回されたものといえよう。
静かに秘めているものがあったのかもしれない。


コピーする者はいろいろな前世の人の生涯をタブラせられるのであるが、暮らしのめどもなく南の大島や鹿児島に渡って、土方や建築工事の手伝いの仕事を見つけて何とかその日のパン代を得ていたことがあった。
その頃の特徴的な思い出に、何かの転機的な場面などで、誰かが近づいたかのように、孤独な身の上に印象的な声をかけていくことがあった。
害意の感じられない傍観者的な人間の声を、地下組織から耳に届けられたのはこの時初めてであった。
しかしそれは決して親身なものではなく、冷たいものであった。
言葉の中身自体がその人に冷たいものであったからであろう。
プログラム全体がこの少年に同情的に暖かくすり寄るものでなかったからであろう。


あてのない、荒野での晩秋と冬枯れのけもののような野良の時代が、この少年のうつつない道行を再現したものであることが、今はっきりと見えてきた。
コピーする者は、やはり少年と同じく、施設に行ったのであるが、少年は金が無くて断られたのだろうか、コピーする者は正直に診察してくれていないと叫んだために、留置されたのである。