精一ルーツの最奥困難部を踏破してみる。

 やはり原点において、不倫問題が潜んでいたと思われる。 すでに窮する程の谷あいに置かれていたようである。
 英飛試験において辞退し落第となる。 この壮児辞退を思いっきり嘲笑われ受けた処罰が、英飛と真反対の蟹の腹這い、突き落とし演技であった。 辞退者は一人でなかったようだ。 英飛者と共に、誰であれ断崖ユウヒの運命から逃れ出ることはできない。 辱めにも、用心もない大っぴらな仕業の末には、手もなく人の目に付いて最高級のドジとなるよう、図られたものであったと考えることができる。 しかし証拠も上がらず何の事件にもならなかったようである。 見て来たような噂が伝えられているだけである。 誰々かも確かとは言えない。 もはや生きてはおられまい、という見込みの仕置きであったのかもしれない。 (「谷蟇」「卑空」の刑。 谷隼人のような自信家ではなかったかという考証がある。)
 同じ頃に、コマドリ姉妹が山中の路で追いはぎにあい、顔がパンパンに腫れ上がるほどに殴られた事件があったという。 べし面登場の曰く因縁である。 (谷隼人と松岡きっこのペアそっくりに、その長男の連れ添いに、眉毛黒々としてエラの張り切った女性が用意される。 その女性の妹縁の子孫からは、ノーベル物理学賞を受賞する教授が出ているそうである。) 犯人が誰かは特定されていないという。 根拠も薄く立ち位置の悪い者に何でも押し付けられるということはよくあることである。 
 精一の場合は、とにかく一切が開聞されている、ドヂの限りであるが、隠し事のできない正直者の歴程にあることだけは保証されている、というコースなのかもしれない。
 「昔の名前で出ています」 鹿児島で昔の名前でいることがどれだけハードなことであったか。 この事に尽きようか。 五寸釘暴行犯を鑿で刺し殺してしまった中学生精一は、この場合警察に捕まった方がはるかに後の人生楽なはずであったが、昔の名前の者は当時の刑務所に入ることができなかった。 明治維新以来精一は転身することなく浮沈し続け、ようやっと戦後になって上の家に上がろうとする。 ここでも英飛開門することはできようもなく、もはや倒れた状態で諸先輩方に留め置かれた、というのが実情であったようだ。 戦った以上は最早立ち去るしかない、という諦めの進路しかない状況であったろうが、一丁前に、エイッ、とやったから却って良し良しと、無理矢理にも上の家の長子に据え置かれたのであろう。