精一と亮子は瀬川氏の子孫でもあった。

 瀬川氏子孫というものも爆発的人数であったようだ。 
 洲という文字を申し付けられる。 藤村周平。 山本周五郎。 推理小説家も現れて、何なんだ州とは、と探偵追究の的となる。 洲、地形だな、浅丘のことだな。 朝丘雪路浅丘ルリ子麻丘めぐみ、・・・
 州というなら、周防、中国地方がいいだろう、実にそんな地名ゴロだけの理由で、机の計画が立てられ、実行される。 世界史計画とはそもそもそういうものであった。 建国神話の列島図面的展開を、単純に、組織独自の地理的情報を手元にした創作物と考えると極めて簡明である。 神話創作が先にあって、その神話に合わせて人が集められ、国が作られ古墳が築かれる。 隼人が早くから古代史に活躍し、京に向けてお姫様が日向を旅立つ。 国の形を世界史地域計画のモチーフとすることも組織の第一哲学である。 日本は浮草浮木と呼ばれるが、馬とも呼ばれ、八橋ともなり、紙垂ともなり、短冊ともなり、芭蕉ともなる。 お隣の朝鮮半島はお月さんに住む兎にも見え、ピラミッドの前に座るライオンかこま犬にも見える。 因幡の兎伝説というのも何かの歴史事実を暗示したものなのかもしれない。 朝鮮を高麗 (こま) と呼ぶ謎がこの地理哲学で氷解する。 フランスは八角形の駒形をしているというので、八角形顔のデカルトが頼まれる。 座標図形のようなもので重力の解明を図ろうとする。 このような素朴な人は世界史無比である。 名前からして何かが転がっているようである。 そして円回転の幾何学数学。 世界史はこのような秘密で満ち溢れているのである。
 洲とは 「す」 と読むべきであった。 すが入ったのす。 今の医学用語でいえば、カリエスということのようである。
 剣道場中退。 出家でもしていれば何の不名誉もなかったであろうが、お城の近辺で舞などをして日を暮していた所、江戸時代直前の急天変の世の中にお城急襲さるの事態が発生する。 兵員不足。 とりあえずも、しばらく剣を振り回したこともなかったであろう次男坊にお呼びがかかる。 役に立たなかったということであろう、弁解の余地もなく処分。 新渡戸氏の使用人となる。 新渡戸氏は北上市孫屋敷に年貢米領地を拝領し、以後孫屋敷は瀬川氏兄弟が軒を並べる集落であり続けたようである。 
 その孫屋敷瀬川氏の子孫が多いのであろう。 藤山一郎、藤山愛一郎氏等もラインに並ぶ先輩方であったか。 稲尾、朝潮、三原、・・・、四国九州、沖縄。 
 精一の母親がその瀬川氏と城下士の子孫であったようである。 その人自体が血縁者というのでもなかったろうが、たとえれば三田美子さんのような人が母親であったらしい。 この縁によって精一の上の家相続は、先祖何百年間かの住居屋敷地に里帰りするという思いがけない巡り合わせに出くわすことともなる。 白木野右衛門家の子孫であること共に、死ぬまで本人の自覚のない事であった。 自分は一体何であったのか、日本人のルーツが自分でも不明解なままであったのではなかろうか。 これでは人と並ぶ自信が湧いてこない。
 姉の亮子も特徴強く瀬川氏の子孫である事を証明している。 男にも女にも伝わる強い遺伝子形質というものが確かにあるものである。 ニコスでお願いします、ニコスでお願いします、とは二人の事を言うのであろう。 もはや窮迫局面です、と悲願を立てておられたのではなかろうか。
 孫屋敷瀬川氏北氏分家の弟、北氏南部氏の分家、南部氏源氏の分枝、源氏村上天皇の皇子ということで自らを富士の山に譬えた人がいたようである。